19. Openness-adjustable Headset

Openness-adjustable Headset: 開放度を調整可能なヘッドセット

まずはデモビデオをご覧下さい。

Openness-adjustable Headsetって何?

外気への開放度合いを物理的に調整する新しいヘッドセットです。

このヘッドセットにより、新しい音楽鑑賞体験・音楽表現方法、知的生産活動環境制御、交通安全支援、および環境認知・対人コミュニケーションに関する支援を提案します。

「目に蓋あれど、耳に蓋なし」と言われます。言うなればOpenness-adjustable Headsetはインターネット接続されたスマートな「耳の蓋」です。

ユーザ・集合知・人工知能に開閉を制御させてヒトの聴覚や社会性を拡張します。

現在ヘッドセットには、耳を塞ぐ形で使用する密閉型、あえて外気をとりいれる開放型、また開放型の一種として直接振動により音を伝える骨伝導型などが存在します。これらには、

  • 外界を遮断できるため生成された音環境に没入できる
  • 外界の音環境を取り入れることで独特な音環境を実現できる
  • 外界の音情報を同時に知覚できるため対人コミュニケーション・交通安全に役立つ

などの特徴があります。しかしこれらの特徴はヘッドセットの物理的構造によって実現されており変えることができません。

そこでモータ制御により密閉型と開放型に変形可能な機構を備えたヘッドセットを開発しました。

これによって上記のような特徴をユーザが能動的に選択できるようになります。

しくみ

フィジカルコンピューティングツールキットkonashiを使い、スマートフォンから指示を出し無線でサーボモータを制御し開閉をコントロールします。arduinoでももちろん動作します。

ヘッドセットのハードウェアは市販のヘッドフォンを分解し、3Dプリンタで出力した可動部と組み合わせました。音響の発生はbluetooth接続の骨伝導スピーカで行います。

ソフトウェアはjsdo.itで書きました。またnode.jsのサーバーとしてMicrosoft Azureを活用しています。一部Javaも使っています。

応用シナリオ(上記デモビデオに収録)

  • 新しい音楽鑑賞体験
    • Songle Widgetを活用し、Songle.jpに登録されているおよそ10万曲もの楽曲から好きなものを選んで、サビの時に自動的に開閉することで没入感や爽快感を高められます。ソースはこちらにあります
  • 知的生産活動支援
    • カフェの喧騒が好きな人や図書館の静寂が好きな人など、知的生産活動に適する環境は人それぞれです。私の場合は最初はカフェがよいのですが、集中してくると静寂を求めたくなります。そこでタイマー仕掛けでだんだん開放度が小さくなるようにすると、スムーズに音環境を移行できます。ソースはこちらにあります
  • 交通安全支援
    • ヘッドフォンをしたまま自転車に乗ると道路交通法に問われる時代になりました。本機能を用いれば、スマートフォンのセンサにより高速移動を検知した場合に自動的にヘッドセットが開放状態になります。うっかり自転車に乗ってしまう方におすすめします。ソースはこちらにあります。 スマートフォンの加速度センサをそのまま使う方式と、ドコモの動作推定APIを使う方式を併用します。

おもしろ応用シナリオ

  • 環境認知支援、コミュニケーション支援
    • ドコモの音声認識APIを活用
      • 誰かに話しかけらたり名前を呼ばれると自動的に開く
      • 予め登録した、興味があるキーワードを認識すると自動的に開く。たとえばヘッドセットを閉じて作業に集中している時でも、周囲に好きな芸能人についての会話をしている人がいる場合にヘッドセットを開いて聞き耳を立てたりできます。
      • 予め登録した、聞きたくないキーワードを認識すると自動的に閉じる。たとえば誰かと話していて、ワールドカップの試合の結果について聞きたくない時、「ワールドカップ」という言葉に反応して自動的にヘッドセットを閉じたりできます。
    • 発言権に時間制限を与える
      • 会議支援。参加者全員が提案ヘッドセットを装着します。誰かが発言するたびにタイマーをセットし、時間制限を超えると全員のヘッドセットを閉鎖状態にします。「だれもあなたの発言は聞こえませんよ!」という無言の圧力を与えられることでしょう。 ある意味自衛的なSpeechJammerといえましょう。
      • 告白タイム支援。このマンガのように、軟弱な男子に「大事な話がある」と言われたら、「10秒だけ時間をあげるわ」とクールにタイマーを起動させるのです。どうせそのような男子は10秒では意味のある発言はしないでしょう。10秒後、冷酷にヘッドセットは閉鎖。「さよなら。」呆然としている男子を横目に、あなたは颯爽とその場を去るのです。

タクシーの運転手や美容師が不必要に話しかけてうっとおしい、というのもよく聞く話ですよね。

古来より、両耳を手で塞ぐというジェスチャーには「聞きたくない」という意味と同時に「やめてほしい」という、哀願のニュアンスがつきまとっていました。提案システムを用いることにより、自分の聴覚にアクセスしようとする外敵に対し我々は毅然とした態度で「あなたにはその資格がありません」というアピールができるようになるのです。

ヴァリエーション

Butterfly

外側に窓がスライドして開閉します。デモビデオで採用しています。細かく開放度を制御できます。見た目にもわかりやすいです。

Gull

ガルウイング機構を採用したモデルです。開放度は閉める・開けるの2段階ですが、閉めた時の密閉度を高くすることができます。見た目にもわかりやすいです。

Moon

開閉機構を目立たなくしたバージョンです。扇型に180度だけ開閉します。

開閉が目立たなくて良いのですが、本ヘッドセット開発においては「外からこの人を見たとき、この人に話しかけても聞き取ってくれそうかどうか」が自明にわかるようなデザインを考えることがひとつのテーマであるため、その点でMoonはちょっと物足りません。

デモビデオにおいても、視聴者にわかりやすく開閉度変化を伝えるにはMoonよりもButterflyのほうが優れていると感じ、そちらを採用しました。

これからやりたいこと

まずなんと言っても、現在はハードウェアむき出しのプロトタイプなので、もうすこしカッコよくデザインしなおしたいです。ソフトウェアも機能むき出しなので、デザインが課題です。

関連するプロダクト

このほどKickstarterに登場して資金を募っている「Here Active Listening」は、耳栓型のデバイスであり、マイクで集音した外界の音響をリアルタイム処理して好みの音響に変質し、ユーザに聞かせることができるシステムでです。

このようなシステムが話題を集めることからも、外界の音響とユーザが聴取したい音楽等の人工的音響をどのように組み合わせるかを考えるプロダクトの将来性が垣間見られます。その上でHere Active Listeningと提案システムの相違点として強調したいのは以下の2点です。

  • Here Active Listeningは常時耳内に機器を挿入し信号処理で音響調整をしているのに対し、提案システムは機構学的な音響調整であり、特に開放的な音響をもたらす際には耳内になにも機器が触れていない機構を追求しています。これは、耳が直接外界に接して感じる触覚・温冷感覚や信号処理に伴う時間的遅れも音響知覚、環境知覚に影響を与えると考えているからです。
  • 対人コミュニケーション支援の上で、「私は外界の音を聞ける状態にあります」という内部状態の開示が重要な観点であると考えている点が異なります。「ヘッドフォンで耳が覆われている/いない」ということをコミュニケーション相手に視覚的に示すことを提案システムでは意図的に行っているのに対し、Here Active Listeningでは外見的には耳栓と同様です。

なお、このほど改正された道路交通法によって、自転車運転時のヘッドフォン装着の危険性、および骨伝導ヘッドセットのように物理的に開放されている機構の安全性の議論などが活発になってきています。物理的に開放可能であり、開閉状態が他者から視認でき、かつ状況に応じて開閉可能であるという提案システムの特性はこのような議論に一石を投じるものとなると期待します。

© 栗原一貴